久々に香炉を作っている。
「香炉」と言っても、衣に香を薫き染めるためのものではなく、また聞香に使うものでもない、し、観賞用工芸品でもない。
昔からアジアン雑貨が好きだったので、インドの線香や渦巻き型の線香やコーン型のお香などを手に入れては焚いていた。横浜では「チャイハネ」、自由が丘や京都では「芽亜里」なんかに通ったものだ。今では長野でも雑貨のお店が増えたのでけっこう手軽に手に入るようになった。
ということで、そういうお香用の香炉をずっと作っている。
コーン型のお香用だ。成形が終わった段階で、実際に線香を焚いて煙の出方を試しているところだ。
香炉を作っていると必ず思い起こすことがある。それは陶の仕事を始めて間もない頃の思い出なのだが、、、。
ーお香を焚くことが趣味だったので、始めた頃は香炉をたくさん作った。形や色などに縛り がなく自由に考えて作れたので楽しかったからだ。それは今でも続いている。
どう「デビュー」したらいいのかわからなかった僕は、あるとき、作品を見てもらおうと あるギャラリーのオーナーを訪ねたのだが、一通り作品を見た彼からは「香炉なんて作っ ても売れないよ。」という言葉が返ってきた。さらに「親を安心させなさい。」とまで言 われた。励ましの意味だったのかもしれないが、「どうしようもないな。」と評価された ような気がした僕はかなり落ち込んだ。
そんな話を聞いた人が言ってくれた。「二十回その人に見せに行ってだめだったとしても 二十一回目はいいかもしれないよ!」と。こんな青春ドラマの台詞みたいな言葉でも、そ れに慣れてなかった僕にはとても新鮮で、そして勇気をもらった。どう進んだらいいのか わからなくなっている僕に、「とりあえず、自分でいいと思っている方向を進んでみれば ?」と言ってくれたのだろう。
恥ずかしい話だが、このことを思い出すと今でも涙が出そうになる。救ってくれたと思っている。
では、今はどうか?というと、どうなんだろうか。今は人の言うことを聞く耳も持ち、我を押すことも絶えさせず、けっこうバランスよくやってるんじゃないかと思う。そういうのを「おとな」と言うんだよね、きっと。なんて、青いことを。