お見舞いに奥様がやってくる。そうすると、ご亭主はそれまで僕と喋っていたのとは調子が変わって、たいていはぶっきらぼうな口調でやや不機嫌そうにいばっている(ようにカーテンのこっち側には聞こえる)。僕はなんだかニヤニヤして嬉しくなる。
一見がさつな感じのじいちゃんが家にいる奥様に電話している。「あしたはさ、無理して来ねえっていいよ。」疲れているから一日寝ていたいのでわざわざ見舞いに来なくていいと言っている。疲れているのはお互い様だろうからね。
80歳と75歳のカップルは若い恋人たちのような華やいだ声でお話をしている。ご主人の喋り方がほんとうに優しい。
無口なだんなに奥様が少々甘えた声で話しかけ続けている。「、、、ね?、、、、ね?」だんなは判断の下しようのない様子でときどき「うーん。」とテンポの悪い相づちを打っている。
夫婦の有りようはじつにおもしろい。生活の様子が垣間見えるような気がする。ま、それはともかく、ひとつ言えるのは「みんな仲がよさそうだ」ということ。
展示会の会場でも夫婦の関係は見られる。すごく美人の奥様とおとなしそうなご主人のカップルがいた。奥様と僕とのやりとりでどれにするか何枚にするか何に使うかなどが決められていく。最後にご主人に「いい?」と訊ねると「いいよ。」と太っ腹な許可をいただく。まちがいなく「惚れた弱み」だね。このご夫婦の将来に幸多くあらんことを心より祈るばかりだ。
な〜んて言ってられない。僕も7日には退院になる。初っ端からけんかをしないようにせいぜい気をつけなければ。